あの箱根での一件以来、俺と毅はよく話すようになっていつの間にか惹かれあうようになった。もちろん、沙雪に振られた毅を落とすのは困難だったが、俺様にかかれば難攻不落の城も確実に落ちる。そういうわけで俺たちは付き合うようになったわけだ。もちろん峠ではそんなそぶりはみせねぇけど、それなりの関係まで進むようになった…って何言ってんだ俺は。峠は峠、プライベートはプライベート。それが俺たちの関係のルールだ。そのほうがお互い都合がいいからな。そうして俺たちは今の関係を維持してきたってわけだ。それは今でも続いている。続いてる・・・はず。
なんで“はず”なのかっていうと・・・
「あれ?毅さん、今日は来てないんですね。」
それはメンバーの一言がきっかけだった。毅は仕事が長引いても走りに来るような車バカだ。まあ走り屋やってたらそうなるんだろうけど。必ず週末には現れて何本か上りと下りをこなして、他愛のない話をして黒い32に乗って去っていく。それが突然パタリと途切れるとなると周囲の人間も首をかしげる。たかが一日来ないくらい俺としちゃどうってことない。
ただそれは不規則に続いた。一日休んでまた次の週に現れる。かと思いきや、2週連続でこねぇときもあった。さすがにこうも続くと周りも黙っちゃいねぇ。先週の夜、奴は来なかった。その前の週も来なかった。今日も来ないでもうずっと来なくなっちまうんじゃねーかな、なんて人事のように考えていた。すると遠くから聞きなれた奴の音が聞こえた。でかい音を鳴らしながら奴の32は俺のEG6の隣に並んだ。俺は煙草を吐き捨て、32に近寄る。すると32のドアが開いて毅が中から出てきた。そのときの奴の様子を見て俺は思わずあんぐりと口をあけてしまった。が、すぐに元に戻して口元を吊り上げながら話しかけてやった。
「よぉ、ずいぶんお疲れの様子だな。この時間じゃ残業ってわけでもねぇだろ。年だな。」
「…余計なお世話だ。」
切り返してきた言葉に覇気がない。いつもならもう一言二言いってやりたくなるような返答をしやがるくせに。らしくねぇな。そんなに疲れちまってるのか?聞きてぇことは山ほどあるが、付き合ったからもお互いを詮索したことはあまりない。むしろ皆無に等しい。だから俺は何も聞かなかった。お互いちょっとやそっとじゃ自分の内面をださねぇことぐらいわかってる。ま、向こうが望んでくりゃ話は別だが生憎そういう感じはまったくない。あれこれ考えたってしょうがねぇ。あれこれ考えんのは俺の柄じゃねぇしな。俺はさっさと話を変えることにした。
「月曜、1時限からなんだよ。この俺を泊めやがれ。」
毅の家から俺の大学は近い。月曜の1時限は必修だからめんどくせーけどなるべく出なきゃなんねぇ。だけどこうやって夜走りにきてるとどうも睡眠時間が削られて次の日は寝坊。少しでも多く眠るためには毅の家から直接通うってのがいい。そうやって何回か遅刻を逃れてきた。大抵俺が無理やり押しかけることが多い。もちろん奴が快く承諾するはずがないが、しぶしぶ受け入れてくれる。そんでもって泊まりに行っておいしくいただくってのが習慣。まぁこれじゃどっちにしろ夜更かししてることに変わりはねえが、朝の目覚めは意外といい。それに会社に行く毅が嫌でも起こしやがるからな。だから泊まるってのは俺にとっちゃ好都合ってわけだ。だから俺は今日も泊まるつもりでいた。しかし帰ってきたのはいつもの嫌そうな顔じゃなく、本当につかれきった表情だった。
「悪い。今日はゆっくり休みてぇんだ。だからあきらめろ。」
「あきらめろだぁ?ケッ、この庄司慎吾様がそう簡単に引き下がるとでも思ってんのかよ。」
「思わねぇよ。おまえの取り柄はいやらしいねちっこさだからな。」
「チッ、言ってくれるじゃねぇか。」
少しだけいつもの調子を見せた毅を見て、俺も少しだけほっとした。やっぱ疲れてるだけじゃねぇか。だけど、表情からは疲れきっていることが見え見えだ。
「悪いけど今日は勘弁してくれ。次は泊まりに来てもいいからよ。」
「ちぇっ…仕方ねぇ、引いてやるよ。だけど先週もその前もこねぇで次っていつだよ。最後にテメェの家行ったのもう随分も前のことだぜ?」
ちょっとからかうような口調で言った。すると奴は本当にすまなそうな顔をした。見たことない。いつも強気な男だから。こんな表情、俺はしらねぇ。
「…それは…わからねぇ。でも次は…いいぜ。」
さすがにここまで言われると俺も無理強いするわけにもいかなくなる。それに次回はいい、と言っているなら別にかまわねぇか。俺はため息を吐いて新しい煙草を取り出してくわえた。
「忘れんなよ?今回は引いてやらぁ。俺様は優しいからな。」
「ああ…すまないな。」
「…お前ほんとに大丈夫か?」
柄でもなくそんなセリフを無意識に言っていた。畜生、らしくねぇのはどっちだ。だけどそういわざるを得ない状況だったんだ。なんつーか、ほうっておけねーってか?ほんと俺らしくねーよな。
「…平気だ。今日は何本かこなしていくからよ。慎吾、付き合え。」
「へぇ、いつになく乗り気じゃねぇか。いいぜ。やってやらぁ。」
そう言ってお互いの愛車に乗り込み、いつも攻める場所へ並べて走り出した。
気のせい。気のせいだ。こんなこと気にするなんて俺らしくねぇよ。いまはただ毅をぶち抜くってことだけに集中する。それなのに一抹の不安はなかなかぬぐえない。だけど今は探る手立てなどどこにもない。毅がそれを全面的に拒否しているのはよくわかった。それ以上踏み込めない雰囲気。それが全身からにじみ出ていたんだ。
「…チッ。調子狂うぜ。」
来週になったらこの憤りを思い切りぶつけてやる。寝かせねぇぞ、毅。俺はここんとこ随分我慢してやったんだからな。そう思ったらもう考えることはただひとつ。あの丸い4つのテールランプを追い越して見えなくするだけだ。ただただEG6を速く走らせることだけを考えた。


そうして何本か走った後、奴と別れた。次ってのが来週だと信じたい。約束破ったら承知しねぇ。お仕置きだからな。




それからしばらく後。
毅は妙義に現れなくなった。




あの久々にあったあの夜から、もう3週間経っていた。








Nobody Reasons

実はまだ連載名決まってません・・・あうあうすみません、タイトル決めるの苦手でしてorz
慎毅前提の島毅です。時期的にはドラマCDのあとぐらいで…
一応この慎毅はいくところまでいっちゃってる前提で(何
かいていくうちにどんどん慎吾らしさからかけ離れていってしまうのですが^p^
とにかくかなりの自己満ですすめているのでそれでもぜんぜんOKって方はお付き合いくださいませ・・・!