どこまでもどこまでも、追いかけてやる―――。
はじめの印象は″むかつく″。
なんだかいかにもリーダーっていう感じが気にくわなかった。人望も厚くて面倒見がいい。それが俺としてはなんかむかついた。口うるさくてうざったい。そのくせ妙義じゃ最速ときてる。俺はそういう奴をこてんぱんにのすのが好きだから、奴はちょうどいい獲物だと思ったわけだ。
いざ話しかければ無意識に喧嘩腰になった。だけど奴はいかにも叱りつけるみたいな物言いをしてきやがった。かといってしばらく言い合っていると、たまに出てくるガキっぽい物言い。
そういうガキっぽいところがもっとみたくて、いつの間にやらからかうような態度もとるようになっていった。
で、いざバトルとなると奴は思わず飛び退きたくなるほど熱くなりやがる。だけどバトルを重ねる度に、どんどんその熱さに似たような気持ちが俺の中にも沸き上がってきた。
抜いたり抜かれたりの繰り返し。だけどそれによってだんだん快感に似た何かが芽生えた。
あの32のテールランプをずっと追いかけ、また32の音を背後に感じるその快感。だけど完全に抜き去ることはない。なぜなら俺が追い抜いても、また奴が追い抜くから。
だけどいつの間にかヤミツキになっていたのかもしれない。そして完全に奴が抜けなくなるまで先に行って、ゴール地点で奴の泣きっ面を見てやりてぇ、って思った。
ただ抜いて抜かれてじゃなく、完膚なきまでにこてんぱんにしてやりたい。そうするには今みたいな小競り合いじゃ満足しねぇ。
「今日も走りにきてんのかよ。ハッ…熱心なこった。」
「そういうお前もだろ、慎吾。」
奴と俺が秋名のハチロクに負けて、妙義の山をより一層攻めるようにり話す機会も増えた。
やっぱりハチロクとの一件があったからだろう。前は面と向かうことすら嫌だったってのに。今はくだらないことを話して、バトルをしたいって気持ちのほうが強い。しかも日に日に強くなる。それに比例してあの快感も一層増していった。
―――俺としたことが、どうもクセになっちまったらしい。
あのハチロクに会わなければ…単なる楽しみで終わったのによ。だけどいまさらやめられねぇ。それにまだこてんぱんにのしてねぇ。
「言っとくけどなぁ、毅。まだまだテメェにナイトキッズ最速を譲る気はないぜ。」
「上等だ。それにいつお前がナイトキッズ最速になったって?」
「ケッ、言ってろ。今日こそぶち抜いてその面泣き顔にしてやるからな。」
ニヤリ、と笑ってお互いの車に乗り込んだ。その瞬間から俺はひとつのことしか考えねぇ。
隣に並んだ漆黒の32。その中にいるあいつ。もう俺にはそれしか見えない。一瞬でそれ以外のことがどうでもよくなる。それぐらい執着してるってわけだ。
追いかけて、追いかけまくって。追いかけられて、追いかけられまくって。
俺がヤミツキになった″快感″―――お前もヤミツキにしてやるから俺がお前の前を走っているときは、ずっとずっと追いかけろよ。待ってなんかやらねーけどな。
だから俺がお前を完全に追い抜いてこてんぱんにするまで。
どこまでも、どこまでも追いかけてやる―――毅。